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東京地方裁判所 昭和58年(特わ)173号 判決

裁判所書記官

萩原房男

(被告人の表示)

本店所在地

東京都北区中十条二丁目二〇番一〇号

アサヒサンクリーン株式会社

(右代表者代表取締役斎藤葉子)

本籍

東京都北区中十条三丁目二三番

住居

東京都北区中十条二丁目二〇番一〇-二〇一号

会社役員

齋藤葉子

昭和一六年九月一四日生

主文

1  被告人アサヒサンクリーン株式会社を罰金一、四〇〇万円に、被告人齋藤葉子を懲役一〇月にそれぞれ処する。

2  被告人齋藤葉子に対し、この裁判確定の日から二年間その刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人アサヒサンクリーン株式会社(以下「被告会社」という。)は、頭書所在地(昭和五五年二月一五日以前は、東京都北区中十条三丁目二三番三号)に本店を置き、巡回浴療入浴サービス及び寝具の丸洗い・乾燥・衛生加工などを目的とする資本金六〇〇万円の株式会社であり、被告人齋藤葉子(以下「被告人」という。)は、被告会社の代表取締役として同社の業務全般を統括しているものであるが、被告人は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上の一部を除外し、外注工賃及び給料手当を架空又は水増し計上するなどの方法により所得を秘匿したうえ、

第一  昭和五四年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が三、七〇八万一、七九五円あった(別紙(一)修正損益計算書参照)のにかかわらず、同五五年二月二〇日、同区王子三丁目二二番一五号所在の所轄王子税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が四四三万三、一一〇円で、これに対する法人税額が一二一万七、八〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和五八年押第七五四号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同社の右事業年度における正規の法人税額一、三九六万八、九〇〇円と右申告税額との差額一、二七五万一、一〇〇円(別紙(四)税額計算書参照)を免れ

第二  昭和五五年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が五、〇八九万一、三四五円あった(別紙(二)修正損益計算書参照)のにかかわらず、同五六年二月九日、前記王子税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が九〇七万一、七八六円で、これに対する法人税額が二七四万五、七〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(同押号の2)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同社の右事業年度における正規の法人税額一、九四七万三、七〇〇円と右申告税額との差額一、六七二万八、〇〇〇円(別紙(四)税額計算書参照)を免れ

第三  昭和五六年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が六、七六九万六、九九五円あった(別紙(三)修正損益計算書参照)のにかかわらず、同五七年二月二二日、前記王子税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一、四九七万九、七六六円で、これに対する法人税額が五〇一万八、三〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(同押号の3)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同社の右事業年度における正規の法人税額二、七一五万九、四〇〇円と右申告税額との差額二、二一四万一、一〇〇円(別紙(四)税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示事実全般につき

一  被告人兼被告会社代表者の当公判廷における供述

一  被告人、楠照正芳こと金仁洙、塩田峰秋の検察官に対する供述調書

一  収税官吏の長谷川重夫に対する質問てん末書

一  登記官作成の商業登記簿謄本

判示各事実 ことに過少申告の事実及び別紙(一)ないし(三)修正損益計算書中の各公表金額欄記載の内容につき

一  押収してある法人税確定申告書三袋(昭和五八年押第七五四号の1ないし3)

判示各事実 ことに別紙(一)ないし(三)修正損益計算書中の各当期増減金額欄記載の内容につき

一  収税官吏作成の売上調査書(右修正損益計算書(一)ないし(三)の各〈1〉。以下調査書はいずれも収税官吏が作成したもの)

一  外注工賃調査書(同(一)ないし(三)の各〈3〉)

一  給料手当調査書(同(一)ないし(三)の各〈4〉、同(一)の〈27〉)

一  役員賞与の損金不算入額調査書(同(一)の〈27〉)

一  雑給調査書(同(一)ないし(三)の各〈5〉)

一  福利厚生費調査書(同(一)ないし(三)の各〈8〉)

一  交際接待費調査書(同(一)ないし(三)の各〈9〉)

一  租税公課調査書(同(一)ないし(三)の各〈13〉)

一  減価償却費調査書(同(一)ないし(三)の各〈19〉)

一  雑損失調査書(同(二)の〈20〉)

一  消耗品費調査書(同(三)の〈23〉)

一  事業税認定損調査書(同(一)ないし(三)の各〈26〉)

一  受取利息調査書(同(一)ないし(三)の各〈28〉)

一  雑収入調査書(同(一)ないし(三)の各〈29〉)

一  支払利息調査書(同(一)ないし(三)の各〈30〉)

一  車輌除却損調査書(同(二)の )

一  車輌売却損調査書(同(二)の )

(弁護人の主張に対する判断)

弁護人は、本件ほ脱の客観的な結果面については格別争いはないとするものの、その主観的認識の面について次のような問題がある旨主張する。すなわち、(一)森山、塩田、千葉に対する水増給与(別紙(一)ないし(三)修正損益計算書の各〈4〉給料手当のうち合計一、〇二二万円余)は、その支給に際し源泉徴収をしていることや、本件ほ脱のそもそもの動機が被告会社倒産の際の右三名の立上資金を準備することにもあることからすれば、いわば強制天引預金の趣旨といえないこともない。(二)役員賞与損金不算入額(別紙(一)修正損益計算書の〈27〉。使用人兼務役員たる右三名にかかるもので、合計一九五万円)は、被告人が昭和五四年五月と七月には右を損金処理できないと誤解した結果損金経理しなかったものであり、手続上たまたま損金扱いとされないことになるにすぎないものである。(三)減価償却費(別紙(一)ないし(三)修正損益計算書の各〈19〉)、車輌除却損(別紙(二)修正損益計算書の〈23〉)については、被告人としては、被告会社の体面上その保有車輌台数を実際より多く取り繕ったところ、顧問税理士の機械的処理により損金に計上されるに至ったものであり、被告人にこの点のほ脱の認識はない、と主張する。

しかしながら、所論(一)については、関係証拠によると、被告人は、被告会社の現金を逐次裏預金に回してしまったことから生ずる経理上の不突合を埋めるため、被告人において本件水増給与その他の架空経費を計上するに至ったものであること、及び右裏預金は被告人が管理する被告会社の資産であることが認められ、一方、右三名が本件水増給与の全部又は一部を管理支配していたような形跡も窺えないこと等を考慮すると、右の処理はもっぱら被告会社の所得秘匿のための行為であり、また、右事実につき被告人は知悉していたものであって、本件水増給与の架空計上につき被告人に故意があることは明らかである。本件ほ脱の動機が所論のようなものであったとしても、本件水増給与分の前示計上・管理状況によると、右認定判断に何ら反するものではないというべきであるし、また、本件水増給与につき所得税分が源泉徴収されていたとしても、右は給与の水増計上に通常伴う作為であるから、これが右認定判断の妨げとならないことも明らかである。所論は理由がない。

次に、所論(二)については、仮に所論のとおりであったとしても、右誤解が何ら故意等を否定する事由とならないことは多言を要しないうえ、更に、関係証拠によると、昭和五四年一二月期における被告会社の使用人兼務役員(右三名はこれにあたる。)に対する役員賞与の支給状況は、一一月及び一二月に支給した分については損金経理されていること、これに対し、五月、七月支給分については損金経理はもとより利益金処分としても公表の処理がされておらず、簿外により支給されていたことが認められ、しかも、右のように一一月、一二月支給分を損金処理とした後も、当該事業年度の終了に至るまで五月、七月支給分を損金として公表処理に改めようとした形跡も窺えないことに照らせば、被告人が五月、七月支給分について支給当時において所論のような誤解があったという点じたいについてすら多大な疑問が存するのみならず、昭和五四年一二月期の終了に至るまで、被告人が右処理を誤解し、たまたま右のような経理処理をしていたものとはいえないことは少なくとも明らかである。結局、いずれにせよ所論は採用できない。

所論(三)について。関係証拠によると、被告人が従業員ら所有の車輌等を被告会社の所有と装った動機が所論指摘のような事情にもよることは認められるものの、その一方において、被告人は、これら車輌等の相当部分に関し架空の領収証を徴するなどして被告会社が買い取った形式を整えたうえ代金分を裏預金として蓄積していたことも認められる。そして、減価償却費とは、取得価額の耐用期間への配分として損金に計上され得る額を、また、除却損とは、一般に除却時の未償却残額をいうのであるから、これらはいわば取得費の変形したものであり、そうであれば、少なくとも右の裏預金に相当する償却資産につき被告会社の損金として計上することが許されない旨を被告人が知悉していたことは明らかであり、また、いったん右のような処理をした以上、計上の時期、金額の詳細は別にしても、税務申告にあたり右の取得費等が被告会社の損金として計上されることを被告人が予想し認容していたものと認められるのであるから、少なくとも右部分につき被告人の故意に欠けるところはないというべきである。また、翻って考えてみると、被告人が税務申告にあたり、関与税理士に対し車輌等を被告会社の所有である旨を、その取得費の額とともに告知して、本件の申告に至っている以上、その取得費等の損金計上につき被告人に故意があるというべきは、前記と同様であるともいい得るのであって、所論は理由がない。

(法令の適用)

一  罰条

(一)  被告会社

判示第一、第二の所為につき、昭和五六年法律第五四号による改正前の法人税法一五九条一、二項、一六四条一項、判示第三の所為につき、右改正後の法人税法一五九条一、二項、一六四条一項

(二)  被告人

判示第一、第二の所為につき、行為時において右改正前の法人税法一五九条一項、裁判時において右改正後の法人税法一五九条一項(刑法六条、一〇条により軽い行為時法の刑による。)判示第三の所為につき、右改正後の法人税法一五九条一項

二  刑種の選択

被告人につき、いずれも懲役刑選択

三  併合罪の処理

(一)  被告会社

刑法四五条前段、四八条二項

(二)  被告人

刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(最も重い判示第三の罪の刑に加重)

四  刑の執行猶予

被告人につき、刑法二五条一項

(求刑 被告会社罰金一、七〇〇万円、被告人懲役一〇月)

よって、主文のとおり判決する。

出席検察官 五十嵐紀男

弁護人 田頭忠(主任)・熊井一元

(裁判官 園部秀穂)

別紙(一) 修正損益計算書

アサヒサンクリーン株式会社

自 昭和54年1月1日

至 昭和54年12月31日

〈省略〉

〈省略〉

別表(二) 修正損益計算書

アサヒサンクリーン株式会社

自 昭和55年1月1日

至 昭和55年12月31日

〈省略〉

〈省略〉

別表(三) 修正損益計算書

アサヒサンクリーン株式会社

自 昭和56年1月1日

至 昭和56年12月31日

〈省略〉

〈省略〉

別紙(四) 税額計算書

アサヒサンクリーン株式会社

〈省略〉

〈省略〉

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